果ての二十日ご用心!?冬に現れる怪物、一本だたらとは

めっきりと寒くなってきて、いよいよ冬本番といった今日この頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
一年が過ぎるのは早いもので、あっという間に12月半ば。今年も”あの日”が近づいてきましたね。

……え?クリスマス?
何を言っているのですか。この時期に”あの日”と言ったら、「果ての二十日」に決まっているでしょう。

どくみつき

ということで今回は、果ての二十日に出現する妖怪「一本だたら」についてご紹介します

目次

12月20日に現れる山の怪。「一本だたら」

一本だたらは主に熊野地方(紀伊半島南端部)の山中に棲むとされる妖怪で、和歌山県や奈良県での伝承が多く残っています。

特に有名な伝承は、奈良県と和歌山県の県境に連なる果無山脈を中心に語られるもので、皿のような一つ目を持つ一本足の妖怪とされています。

他にも奈良県吉野郡川上村の伯母ヶ峰では、「電信柱に目鼻をつけたような姿で、宙返りをして一本足の足跡を残す」や「猪笹王(※後述)が化けた一本足の鬼神である」といった話も残っています。

上記の伝承では一本足の化け物であることの他、旧暦の12月20日に山中に現れることが共通しています。
そのためこの日は「果ての二十日」と呼ばれる厄日とされ、外出を避ける文化があったそうです。

どくみつき

果無山脈は、「果ての二十日に人通りが無くなる」ことから名付けられたとも言われています

つぐみ

余談ですが、江戸時代に京都の粟田口に設けられていた刑場では、果ての二十日に処刑が行われていたことから同じく厄日とされていたそうです

猪笹王?カシャンボ?類似妖怪も多数存在

果無山脈の「一本だたら」以外にも、上の項でも触れた「猪笹王(いのささおう、いざさおう)」を始めとする一本足の妖怪や、一本だたらという名称の妖怪伝承が紀伊半島を主として各地に伝わっています。
それらは大きく分けて4パターンに分類できるようです。

大猪の亡霊が化けた一本足の鬼神

一つは大猪の霊が鬼神となって人を襲うものです。

奈良県の伯母ヶ峰に、背中に熊笹が生えた大猪がいました。
ところが射馬兵庫という狩人に仕留められたことで大猪は亡霊になり、猪笹王という一本足の鬼神へと変貌します。

猪笹王は武士に化けて紀州湯の峰温泉に湯治に来るも、正体がバレると射馬兵庫に復讐するために彼の猟銃と犬をなんとかするよう宿の亭主に頼みました。
それを聞いた土地の役人は祟りを恐れて兵庫に交渉しましたが、当然兵庫はこれを拒否します。

それに腹を立てた猪笹王は、伯母ヶ峰で旅人を襲って食らうようになりました。

その後、丹誠という上人(高僧のこと)が猪笹王を地蔵尊に封じたのですが、「毎年12月20日だけは自由にする」という条件をつけたことで、果ての二十日にだけ封印が解けるようになったのです。

というお話。他にも年老いた猫や馬が化けるパターンもあるようです。

柱状の姿で宙返りをする妖怪

こちらは前述した、「電信柱に目鼻をつけたような姿で、宙返りをして一本足を足跡を残す」タイプのものです。

高知県の「タテクリカエシ」と同質の存在とされ、堀田吉雄の「伊勢の妖怪」によると無害な妖怪とされています。

ちなみにタテクリカエシは手杵(中央のくびれた太い棒状の杵)のような姿の妖怪です。
道の反対から転がってきては出会い頭に人をひっくり返しますが、急な方向転換ができないため、ぶつかる寸前に身をかわすとやり過ごすことができると言われています。

片足だけの足跡が残っているもの

数として一番多いのは、一本足の足跡が残っているパターンでしょう。
紀伊半島に限らず各地で語られており、その多くは姿は見せずに一本足の足跡を残すだけの話が多いようです。

例えば静岡県磐田郡川上では「誤って片足を切断した杣(木こり)の怨念が、降雪の翌日に片足の足跡をつける」、徳島県海部郡では「秋の夜の引き潮や大波のあった朝、波打ち際から4~5尺(1.2~1.5m)のところに怪物が足跡を残す」などの言い伝えが語られています。

山童の一種

和歌山県の西牟婁郡では、ゴーライという河童の一種が山に入り、カシャンボという山童になったものを一本だたらと呼んでいます。

山童(やまわろ)とは、主に秋の彼岸ごろに山に入った河童が変異した妖怪のことです。
西日本で多く伝えられており、春の彼岸どきになるとまた川へ来て河童に戻ります。

このカシャンボは一本だたらと呼ばれるだけあって一つ目一本足ですが、山童なので相撲を挑んでくるそうです。

どくみつき

一つ目一本足は山の神様や妖怪によくみられる特徴ですね

つぐみ

足が一本だけのカシャンボがどうやって相撲を取るのだろうか?

名前の由来は鍛冶職人?あの神様との関連も

名前の「だたら」は、製鉄の際に使用する「タタラ(ふいご)」が由来である説が有力です。

これは当時の鍛冶職人が片目で長時間炉を見続けたために利き目を失明したことと、ふいごを片脚で踏み続けたため脚を悪くしたことに通じているとされているからです。

そのため一本だたらは、同じく一つ目である製鉄・鍛冶の神「天目一箇神(あめのまひとつのかみ)」が零落した存在であるとも言われています。

どくみつき

昔は独自の技術や生活様式を持つ人たちが神様や妖怪に例えられることが多かったですからね。一本だたらも鍛冶職人だったのかもしれません

つぐみ

ギリシャ神話において、鍛冶の神ヘパイストスの助手であるキュクロプスが単眼なのも同様の理由と考えられているね

おわりに

ということで今回は妖怪一本だたらについて紹介してきました。簡単にまとめると、

  • 主に紀伊半島で伝わる一つ目一本足の妖怪。
  • 旧暦12月20日に現れるため、その日を厄日として「果ての二十日」と呼んでいる。
  • 伝承は複数あり、中には姿の見えないものや別の妖怪に類似したものもいる。
  • 名前の由来は製鉄に使用するタタラからきている説が有力。また鍛冶の神である天目一箇神が零落した存在とも言われている。

といったところでしょうか。

旧暦換算のためズレはあるでしょうが、もうすぐ果ての二十日が訪れます。紀伊半島の近くにお住みで怖いもの知らずな方は、是非この機会に入山してみてはいかがでしょうか。
もちろん僕は責任を取りませんけどね。

どくみつき

僕はお家でクリスマスを楽しむことにします

つぐみ

ケーキの予約はしておいてよね

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この記事を書いた人

オカルトを好むWEBライター。鳥類型怪人になるのが夢。

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