人の髪、とりわけ女性の髪に不思議な力が宿るなんて話を、誰しも一度は聞いたことがあるのではないでしょうか。
この「不思議な力」というのは、神や魂が宿るといった神聖なものを指す場合もあれば、反対に怨念や邪気がこもるといった危険な意味合いを指すこともあります。
その負の念が髪に宿ったとき、人は「髪鬼」といった妖怪に転じてしまうことがあるのです。
今回は髪鬼の紹介と、髪に宿る力についての話をしていこうかと思います。

今回はどうして髪鬼を紹介することにしたの?



ゲゲゲの鬼太郎(4期)に出てきた鬼髪のデザインが気に入っちゃって……





ファンアート使いたかっただけかい!
髪に宿る念により生まれた鬼女。「髪鬼」


髪鬼(かみおに)は、妖怪絵師である鳥山石燕が描いた画集、『画図百器徒然袋』に載っている妖怪です。別名として、鬼髪(きはつ)とも呼ばれています。
画図百器徒然袋では、ぼさぼさとした長髪をもつ女性の姿で描かれており、毛髪でできた角のようなものがあるのが特徴です。
古来より、人間の髪には不思議な力があるとされていたことから着想を得て、石燕が創作した妖怪とされています。
石燕の描く髪鬼の上には、以下の文章が書かれていました。
身体髪膚は父はは(母)の遺体なるを、千すじの落髪を泥土に汚したる罪に、かかるくるしみをうくるなりと言ふを、夢ごごちにおぼえぬ」
鳥山石燕『百器徒然袋』



さっぱり意味がわかりません



「身体髪膚は父母の遺体なる」は、孔子が言った「身体髪膚これを父母に受く」に似ているね。
だとすると、



【「髪から皮膚にいたるまで両親からもらった大事な肉体なのに、大量の髪を地面に落とす(粗末に扱う)ことは罪である。だからこんな苦しみを味わう羽目になるのだ」などとぼんやり思った。】
みたいなことなのかな?



あー、うん。孔子?の言葉ね。僕もそう言おうと思ってたとこ
ですが、石燕の書く文章は妖怪の解説をしているとは限りません。
髪鬼は一般的に、髪を粗末に扱うと変化する妖怪とは語られておらず、女性の髪に怨みの念や嫉妬心が宿って妖怪化した、あるいは髪につく妖怪とされています。その髪はいくら切っても伸び続けるんだそうです。
髪にまつわる信仰と思想
記事冒頭で、人の髪には不思議な力が宿るという話を少ししました。
この項では、髪にまつわる思想をいくつかご紹介しようと思います。
髪の長さは霊力の強さ。神託を受ける巫女の髪


古来より髪は霊力を持つと言い伝えられていました。
とりわけ女性の髪には神が宿るといわれ、神聖なものとされています。
そのため平安時代における上流階級の女性や、神に仕える巫女は髪を伸ばし続けていました。より強い霊力を持つことができると考えられたからです。
特に巫女は神託を受けるという役割もあることから、髪を伸ばすのはとても重要なことでした。



現代ではアルバイトの巫女さんが多いので、ウィッグを付け足す場合もあるそうですが
ではなぜ、強い霊力を持つのは女性の髪とされるのでしょうか。その答えは、ヤマト王権成立ごろの古代日本にあります。
このころの日本では、「ヒメヒコ制」という二重主権による政治が行われていました。
ヒメヒコ制とは、祭祀的な役割をもつ女性首長である「ヒメ」と、軍事的な役割を担う男性首長「ヒコ」による共立的な政治体系のことです。
この祭祀を司るという役割が定着し、民間信仰において女性は「霊力により加護を与える存在」とされていきます。
霊力を持つとされる女性だからこそ、より強い力が髪に宿ると考えられたわけですね。



民俗学者の柳田国男は、親族や恋人など、親しい間柄の女性がもつ霊力に対する信仰を、「妹の力(いものちから)」と呼んでいました



妹の字が使われているけど、妹に限らないんだね
神が宿るとは限らない。邪気の依り代としての髪
上記のように髪が神聖なものとされる一方で、邪気や厄がこもるとも言われてます。
特に傷んだ髪はその傾向が強いそうです。
まったく逆の扱いですが、これは宗教的な考え方からくるものではなく、実際的な事象から生じた信仰なのでしょう。
伸びた髪は物質的に重く、取り回しも悪いため、実生活において軽微なストレスが付きまといます。人間の身体というのは意外と繊細なもので、髪を切ってほんの数グラム頭が軽くなるだけでも大きく気分が改善するものです。
このさっぱりとした気持ちが邪気を払うことを連想させ、逆説的に髪に邪気が宿っていたと考えたのでしょう。
また、傷んだ髪ほど邪気が宿りやすいというのは、身体の栄養状態の悪さや手入れする余裕がないことを表しており、心身ともに不健康であることが由来すると考えられます。



髪鬼はこっち寄りの発想だね
仏教徒に髪は不要?お坊さんが髪を剃るワケ


髪と信仰の話をするならば、お坊さんについても言及しないわけにはいきませんね。
一般の人がお坊さんと言われて思い浮かぶのは、まるっと剃り上げられた坊主頭ではないでしょうか。
いったい何故、お坊さんは頭を丸めるのでしょう。
それは仏教において、髪の毛が煩悩の象徴とされているためです。
剃っても剃っても生えてくる髪の毛を、無限に湧いて出る煩悩に見立てているんだそう。それを剃り上げることで、自分と煩悩を切り離しているんだとか。



あと単純に髪型を気にしてしまうことが、修行の邪魔になるんですって
ただし浄土真宗のお坊さんは例外で、髪の毛を伸ばしている姿が見られます。
これは、浄土真宗を開いた親鸞聖人の教えに基づくもので、お坊さんと一般人を区別しない「非僧非俗」という考え方があるからです。
阿弥陀如来は大層慈悲深く、念仏を唱えれば俗人でも救ってくれます。なのでお坊さん自身が煩悩を捨て、悟りを開いた超人を目指す必要がないんですね。
終わり
今回は、髪に由来する妖怪「髪鬼」の紹介と、その着想元である「髪に宿る力」についてのお話をしました。
髪の状態がよいと運気が上がるなんていいますし、そうでなくとも髪は自身を魅力的に見せるファクターに違いありません。
皆さんも髪を大切にして、日々の生活を豊かなものとしてくださいね。



たまにはボクも髪を伸ばしてみようかな



いや、つぐはその髪型が一番魅力的だと思うよ



どくみさん……



立ち絵の差分描くのが面倒なんだね



♪~ (・ε・;)
それではまた。
コメント