猛暑の続くこの頃、皆さまいかがお過ごしでしょうか。
どうにも夏の時期は疲労が溜まりやすく、熱中症などにも気を付けなくてはいけないため何かと億劫になっているのではないでしょうか。
しかし風鈴や向日葵、お祭り、ヒグラシの鳴き声などなど、夏には夏の風流があるというもの。酷暑の続く昨今では少しずつ夏のあり方は変わっているようですが、どうせなら風物詩を楽しんでいきたいですよね。
そこで今回は個人的に好きな夏の風物詩「入道雲」と、夏の定番である「妖怪」に因みまして、妖怪『大入道』についてのお話をさせていただきます。
大入道ってどんな妖怪?入道雲との関係は?
大入道とは何者か
大入道(おおにゅうどう)は大きな姿をした妖怪です。大きさは2メートル程度のものから山のように大きなものまで様々な目撃例があり、姿も単なる巨人であったり影のような存在であったりと幅広く言い伝えられています。
「入道」とは仏道に入ることや仏道に入った人、つまりお坊さんなどを指す言葉です。なので大入道という名は、「大きなお坊さん」という意味のようです。
しかし上記の通り大入道はお坊さんの姿とは限らず、お坊さんの姿をしている場合は「大坊主」という妖怪として区別されることもあります。
2メートルから山サイズはもはや別の妖怪として区分すべきでは?
全国区で伝わる妖怪は多様性に満ちているよね
どうして積乱雲を入道雲と言うの?
では何故夏によく見かける積乱雲のことを「入道雲」と呼ぶのでしょうか。積乱雲とお坊さんでは似ても似つかないですよね?
そうです。お察しの通り入道雲という名称は、妖怪の大入道が由来となっています。モクモクと立ち昇る積乱雲から大入道を連想するとは、昔の人の遊び心が感じられますね。
「大入道+雲」で入道雲なんだね。……本質的なとこが略されてない?
スーパーファミコンを略してスーファミと呼んだら、肝心のコンピュータ部分が無くなる。みたいなね
懐かし!おじいちゃんちにあったよ!
おじいちゃんち……だと!?
伝承の一部をご紹介
大入道は日本各地に伝承を残しています。その多くは人を驚かせたり病気にするなど人間に害をなすものですが、中には人に利する話も残っているようです。
ここではいくつかの逸話を紹介していきましょう。
徳島県名西郡石井町の事例
阿波名西郡高川原村字城(今でいう徳島県名西郡石井町)のとある小川の水車の近くには、二丈八尺(約8.5メートル)ほどの大入道が現れるといわれていたとか。なんでもこの水車に米などを置いておくと、水車を踏んで精米してくれるんだそう。妖怪だけど良いところもあるんですね。
ただしその様子を見ようとすると脅かされてしまうそうなので、距離感はしっかりと保ちましょう。
岩手県遠野市の事例
明治の初年、岩手県遠野市新町で紺屋(染め物屋)の女性が親戚のところへお見舞いに行こうとしたところ、夜の9時ごろに背丈1丈(約3m)ほどの大入道に出くわしたんだそうです。
女性が大急ぎで逃げだすと、大入道も袖をはためかせて追ってきました。そして六日町の綾文という家の前まで来たあたりで、女性は大入道が追いかけてくる気配が消えたのを感じて立ち止まりました。そして恐る恐る振り返ると、すぐ後ろに綾文の家の屋根よりも高い大入道が立っていたんです。この綾文という家は当時にしては珍しい3階建てでしたので、その大きさが伺えますね。
この後女性は再び逃げ出すのですが、あまりに走りすぎたものだから脛が腫れあがって生涯治らなかったんだとか。脅かすにしてもやりすぎですね。
東京都北区の事例
少し変わった話では、兵隊さんの霊が大入道になって現れたというものもあります。
第二次世界大戦中に赤紙を配達していた人物が、東京都北区にある赤羽駅の付近で兵隊姿をした大入道に襲われ、4日後に遭遇現場で変死したんだとか。
その大入道の正体は自殺した工兵隊の新兵が霊になったものだとか、剣を無くして上官に殺害された兵隊の霊が化けたものだと噂されているようです。
不思議なことにこの大入道の現れた辺りでは赤紙を受け取った人はいなかったんだとか。配達員さんは気の毒ですが、兵隊さんが自分のような人間を出さないために大入道として化けて現れたのでしょうか?
宮城県仙台市の事例
宮城県仙台市にある荒巻伊勢堂山の坂道に、毎晩唸り声をあげる巨岩があると噂があったそう。
岩を叩いたりするとさらに大きな声で唸り、果ては雲をつくような大入道となって人々を驚かしたんだとか。
この話を聞いた伊達政宗は侍臣に命じて正体を明かそうとしたものの、その翌日には顔を青くした侍臣たちが帰ってきて、「我々にはどうしようもできない」とお手上げ状態だったそう。
仕方がないので政宗自らが件の坂に向かうと、普段より大きな大入道が現れました。しかし政宗が臆することなく大入道の足元に矢を射ち込むと、大入道は悲鳴をあげて岩の姿に戻ったんだとか。
そして周囲を捜索すると脚に矢が刺さった子牛サイズの大川獺が苦しんでいて、この大川獺が大入道の正体だったと判明したそうです。伊達政宗の強さを表すエピソードの一つですね。
のっぺらぼうや大首もそうだけど、人を驚かす妖怪は狐狸やら川獺やらが化けてるパターンはそれなりに多いよね
妖怪の正体が「動物が化けたもの」って、ロマンがあるんだかないんだか
大入道の正体はブロッケン現象?でもそれって……。
そんな大入道ですが、狐狸や大川獺といった動物を正体とする説のほか、科学的だとまことしやかに唱えられている説があります。それが「ブロッケン現象」です。
ブロッケン現象とは太陽の光などが自分の背後から差し込み、正面にある霧や雲に光が散乱することで自分の影の周りに虹のような光輪が生じる気象光学現象のことをいいます。
「霧や雲のスクリーンに投影された自分の影を化け物と見間違えたのでは?」というのが、「ブロッケン現象=大入道」説です。
富山県の黒部峡谷に現れた16体の大入道には「七色の後光が差していた」という目撃情報がありますが、まさにこの現象が当てはまるでしょう。
また井上円了の著書『おばけの正体』では、海上に現れた大入道の正体を「提灯によって濃霧に映った自身の影である」と暴いた、『海上の幻影』という話があります。こちらも原理としては概ね同じものといえます。
しかしあくまでこれらは大きな人影が見えたことに対する理由付けの一例です。雑学の一つとして知っておくと面白いと思い紹介しましたが、これだけでは妖怪の正体を明かしたとは言い難いでしょう。
終わりに
というわけで今回は大入道についてまとめてみました。日本各地に目撃例のある妖怪なので、あなたの住んでいる場所でも見られるかもしれませんよ。本物か”それらしきもの”かは別にして、ですがね。
はなから信じていない方は入道雲でも見て夏をお楽しみください。
それでは皆さま、熱中症にはお気を付けてお過ごしください
大入道の正体が「熱による幻覚」なんてことにはならないようにしてくださいね
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